人類補完機構(コード・ウェイナー・スミス)で読んだ本
人類補完機構 第81Q戦争
The Instrumentality of Mankind
コードウェイナー・スミス 著 伊藤 典夫 訳 日本で発刊されているコードウェイナー・スミスの人類補完機構シリーズの最終巻…に、一応あたる本です。 とはいえ、人類補完機構のシリーズ自体、エピソードの起こった期間がバラバラで断片的だからこれが最終巻というイメージはあまりしないです。実際、この巻で補完機構発足の話が出てきたりしてますし。 でも、人類補完機構の発足のきっかけになったエピソードが収録されているためかこの本の原書のタイトルはストレートに『The Instrumentality of Mankind』(人類補完機構)となってます。第81Q戦争 War No.81-Q
戦争にルールを決めてそのルールに基づいて戦争を簡潔に行う…というなんとも言えない話で、語りが戦争の実況中継のような感じ。
すごく短い話です。
コードウェイナー・スミス14歳の時の作品。
…とても14歳の子が書く話とは思えないという感じがしたのはティーンエイジャーを甘く見ているためなのか、コードウェイナー・スミスを買いかぶりすぎているためなのかわかりませんが。
なんとなく話の淡白な感じが若さを感じました。
マーク・エルフ Mark Elf
衛星で長い間眠っていた一人の少女が長い時が経った変わり果てた地球に降り立つ話。
人類補完機構発足のあしがかりとなるエピソードです。
変わり果てた地球にやってきた…という話はよくありますが(猿の惑星とか?)、この話は不思議の国のアリスのような雰囲気がします。
SF的なのに妙にファンタジーな雰囲気がするのは人類補完機構シリーズらしいです。
昼下がりの女王 The Queen of the Afternoon
話の中の時間の流れ的にはマーク・エルフのその後の話。
マーク・エルフとは違う少女が同じく地球に降り立つ話。
事実上、人類補完機構発足エピソードでね。ここで人類補完機構がどうして発足されたのかがわかります。管理され過ぎて人間らしさを失った無気力な人間をより完全に補佐(インストルメンタリティー)を行う機関…。
…でも実際はその補完機構に人間は管理されすぎてやはり無気力になってたりしてましたが。(この話から遠く過ぎた未来で。)
でも、この話ではそういった補完機構発足の話の他に少女が年老いて自分よりも長く生きられる夫との最後の会話部分も印象的。
人々が降った日 When the People Fell
人間が空から降ってくる!! という話。
それも金星の空の上を。
大人も子供も宇宙船から何万と落ちてきて途中の仲間の死骸もかきわけて。
なんの武器もなく人々の群れがただ宇宙船から降りてきて金星を乗っ取ってしまう…。
金星を乗っ取る手段として実験で行った…という話だけどシンプルだけどおぞましいです。
…で、結局金星を乗っ取ったのはいいけどそれだけで後に何も残らなかった…まるで人々が成した事に意味がなかったようなラストがなんとも…。
青をこころに一、二と数えよ Think Blue, Count Two
殖民惑星の移民が醜くなってきているから補完機構が美男美女を三万、その星へ送ることに。
しかし、過去に宇宙を旅している間に宇宙船内で人が道をそれてしまうという事件が起こってしまって、再びその事態を避ける処置を行ってから旅立たせることに…という話。
私的にはこの本の中で一番好きな話です。
肉親愛(俗にいうところの親愛…かな?この話だとアガペー、エロスと対立する概念というところかな?)のポテンシャルが高い娘を船に同乗させたこの話、宇宙の深遠で誰も頼るものがなくなって耐えられなくなって来て悪夢のような行動を起こし始めた時の状況がもっとも見るべきところでしょうか?
もしも彼女の相手に感じさせる肉親愛と彼女自身の献身的な思いと予防処置がなければ肉のすりきれるまで引き裂かれていたはずだったという状況と事件を起こした当事者が後に彼女に思いやりを持って接する会話がこの話のもっとも見るべき点ですね。
それとラストで事件を起こした当事者に対して彼女が『まだ子ども扱いするつもり?』と、思うところもなんとも。おぞましいことをされそうだったのにも関わらず憎しみあっているわけでない、最後に軽口を叩くシーンがどろどろとした展開があったのにも関わらず最後にすがすがしい気持ちにさせてくれます。
大佐は無の極から帰った
The Colonet Came Back from the Nothing - at -All
宇宙の深遠の無の世界から無傷で生還した大佐の話。
でも彼は肉体こそは生還したが、心だけはその宇宙に置き去りにしてきたという…なんともインナースペースな話。
で、その救うのが霊媒師という…ある意味笑える話。
悪いがこの話で笑ってしまった…。
ガスタブルの惑星より From Gustible's Planet
ガスタブルという星のアヒルそっくりな異星人が地球と外交…するつもりで実は乗っ取りに来た話。
外交をするつもりだったのに意星人がうっかり火事で丸焼けになってその焼け具合がまるでアヒルの丸焼きに見えて食べられてしまったという…なんとも皮肉とユーモアに溢れた話。
…結局外交…もとい、侵略は失敗に終ったようだ。
酔いどれ船 Drunk boat
『大佐は無の極から帰った』と、似たような感じだけどこちらはもっと皮肉と陰謀と名誉に群がる人間達の思惑に満ちた話。今まで行ったことない宇宙に向かった男を取り巻く周りがドタバタ周りで騒ぐ(当事者はまったく感知も関知もしてない)という…
『戦争をしてはいけない』という不屈のスローガンの補完機構の長官は軍を動かすわ、勝手に殺し合いはするわ…
その様子が笑える。なんなんだ?!!…という感じで。
夢幻世界へ No, No, Not Rogov!
旧ソ連で人の心を読み取ってしまうという装置を開発した科学者がうっかり間違えて未来の世界を見てしまってあまりの狂喜乱舞な世界にそのままお亡くなりになってしまう話。
男女間の愛蔵劇や硬く冷たい感じの話の進み具合なのに最後の最後でまったく相反する不気味な形のオチでいっきにコケる。
いや、このコケ具合がこの話の持ち味かな?
[その他の作品]
(以降収録されたいるのは補完機構シリーズではない短編)
西欧文化はすばらしい Western Science Is So Wonderful
この本は皮肉とユーモアに溢れた話が多いのだけどこれも皮肉とユーモアに溢れている。
…というか、中国の仙人がアメリカにあこがれてアメリカに渡る??
それが『ライターってすばらしい、火が付くなんて!』『ミルク缶ってすごい!!』とか…なんともいえない理由で。
何か外している。そんな話でしたね。
ナンシー Nancy
宇宙に一人で旅立った男が孤独に耐えられなくなった時に現れた女性との話。
…この女性、男の中の理想の女性が具現化した存在というなんとも皮肉に満ちた話。
宇宙に旅立った男はその女性を見て『これほどの女性はいない』といわんばかりだったけど…
それは自分の理想の女性像そのものだから…というイヤな感じが。
いや、誰でも理想の異性像とかあると思うけど具現化したらしたで自嘲以外何も残らない気がしたのは私だけ?
達磨大師の横笛 The Fife of Bodidharma
皮肉に満ちた短編。
はるか昔にたまたま作られた人の心の感情を増幅してしまう横笛、それを巡る長い時の話。
その音色を聞く者にとっては善いよいものに、善き武器になるけどヒトによっては自滅してしまう以外なにもないという…まるで鉄○28号のリモコンのような…
結局最後にはるか未来の衛星に乗っかって全人類が聞く…(かもしれない)という状況に…
…人類滅亡ですか?
アンガー ヘルム Angerhelm
何故だか分からないがラジオのノイズを聞いているとアンガーヘルムというヒトの名前を思い浮かべてしまうという話。
ミステリータッチでなんだか現実味のある話なのに事実は現実から大幅に外れたものというのが…
幽霊??
親友たち The Good Friends
男が『友人達の助けで』宇宙船から帰還したというのを話す話。
思いっきり夢オチな話で…
結局この本の最後に飾るのはそれはアンタの妄想!!という夢オチネタなんて…!!
Author&WebMaster : Azusa | 2004年8月 8日 | 人類補完機構(コード・ウェイナー・スミス)
人類補完機構 シェイヨルという名の星
The Best ofCordwainer Smith
コードウェイナー・スミス 著 伊藤 典夫 訳人類補完機構シリーズ第三弾…っていっても実は原書のThe Best of Cordwainer Smithを第一弾の人類補完機構 鼠と竜のゲームとこの本とで二つの本に分割したものだったりするそうです。(訳者後記参照)
設定がバラバラのようで一定しているようで人類補完機構という組織が支配していた世界を年代も場所もバラバラに見ているような感じです。一つ一つの話に接点が無いようであるのでシリーズ全てを読まないとなんだか納まりが悪いです。
クラウン・タウンの死婦人 The Dead Lady of Clown Town
人類補完機構の長編のノーストリリアや鼠と竜のゲーム内『アルファ・ラルファ大通り Alpha Ralpha Boulevard』あたりで活躍している人類補完機構の名長官、名家とも言えるジェットコースト家がどのように生まれたのかが描かれている話。
内容的にジャンヌ・ダルクが下敷きらしい。一人の魔女と呼ばれるようになる女とそして男、そして一人の卑しい身分の少女が多数の者を引き連れ、組織(この場合、人類補完機構)に自分たちの存在や価値を訴え、そしてそして考え方や行動が反しているので卑しい身分の少女は見せしめに焼き殺され、引き連れてきた者たちは殉死のように喜びながら死んでゆく…
考え方、価値観の『革命』の話なのだけど…いや…考え方を訴えたいという点ではいいのだけど…ただ、卑しい身分と呼ばれているとは言え、喜んで死んでゆく人々(この話では人に近づけて作られた動物たち)というあたり、怖い。
集団自殺…それに近い。
そして殉死する人々の黒幕が『クラウン・タウンの死婦人』…ただ死を待つだけの隠れて生きている卑しい人々に『今はまだよくわからない希望』を与えたこの人物です。
しかし…ただ死んだのでなく、『何かの意味』を後世に残して死んでいったことには変わらないでしょう。
それがノーストリリアやアルファ・ラルファ通りに続いてます。
老いた大地の下で Under Old Earth
えっと…この話は…人類補完機構シリーズの中で異色ですね。話の筋としては『カリスマ的になって人々に自分の名を轟かせたいヒッピー』が『ドラッグ』(この話ではコンゴヘリウムという不気味な物質から出る音)を使って『ドラッグソング』を聞かせているという感じ。昔のビートルズが『ドラッグソング』と呼ばれた音楽を作っていた時代…そう、『Lucy In The Sky With Diamonds』とか、アルバム、Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Bandとか出してた頃いう感じを連想させる話でしょうか?なんとなく話の内容もサイケ調ですし。
結局、この話でカリスマ的になりたかった人物、(サン・ボーイという名)はビートルズと違って堕落してダメになった人々に『変な死に方』を教えるだけの人物だったので人類補完機構の死にかけた長官が死を賭して止めるのですけど。
帰らぬク・メルのバラッド The Ballad of Lost C'mell
人類補完機構 ノーストリリアで活躍した猫娘…猫から作られた人間、ク・メルと人類補完機構長官ロード・ジェットコーストのちょっとロマンチックな少し切ないお話。
話はノーストリリアと鼠と竜のゲーム内『アルファ・ラルファ大通り Alpha Ralpha Boulevard』をまたぐ形です。ク・メルがどうやってジェットコーストと出会ったか、そしてク・メルが誰を愛していたか、そして何故、人類補完機構は《人間の再発見》(鼠と竜のゲーム内『アルファ・ラルファ大通り Alpha Ralpha Boulevard』参照)をしようとしたか、などがこの話でわかります。
感じ的に長編ノーストリリアと短編アルファ・ラルファ通りの補完的な感じのお話でしょうか?
ま、この話一つでも十分面白いのですけど。
シェイヨルという名の星 A Planet Named Shayol
この本のタイトルにもなっている短編。
ダンテの神曲 地獄編がベースだそうです。
シェイヨルという名の星は罪を犯した者を送り出す世にも恐ろしい星…。私はダンテの神曲は読んでないのですけど…(今度読もう…)ただ…ダンテの神曲の地獄編がこんな感じならエグイですね。地獄というのはこんな感じなのか??
この星に閉じ込められた人々は何かの生物に永遠に生かされ、痛みを感じさせられ、体から手が生え、足が生え、人間が生え…
そしてこの星に生きるのが辛いものはまるでドクター・キリコのような医師(ドクター・ヴォマクト…何故か他の短編にも何度か登場、妙な医師です)の取り計らい?で予め心を壊したり、視神経を焼ききったり…
それってやさしさなのだろうか?
しかも子供まで送り込まれたりしている。
とにかく、結局のところ人類補完機構もここまでエグい星とは感知してなかったので後にあまりの悲惨さに囚人達に哀れみをかけますが…
しかし…地獄ですね…これは。
Author&WebMaster : Azusa | 2003年10月 1日 | 人類補完機構(コード・ウェイナー・スミス)
人類補完機構 ノーストリリア
Norstrilia
コードウェイナー・スミス 著 浅倉 久志 訳コードウェイナー・スミスの人類補完機構シリーズはほとんど短編ですけどこれだけは例外。唯一の長編だそうです。
主人公以外に他のキャラにもスポットが当てられているのが特徴。神視点での話の進行ですね。こういうのって…同じ『人類補完』という言葉を使ったエヴァに似ている気もします。
一人の少年が地球を丸ごと買い取り、そして何十万人もの女を買いそして故郷へ帰った物語。
人類が移住した不毛の星、ノーストリリアで一人の少年が大人としての試験を受けようとしていた。しかし彼はこの星でなくてはならない能力が欠けている…そう、テレパシー。時々他の人以上に心の声が聞こえたり、人にダメージを与えるほどテレパシーで怒鳴り散らしたりできるがでも通常は普通に耳と口を使うだけ。でも彼は大人としての試験をなんとか通り抜けた。しかし彼の命を狙う人が…
そして彼が死にたくない一心で過去の先祖のコンピューターを使った先物取引…これのために彼…ロッド・マクバンは宇宙一の大金持ちになってしまった。
SF…というよりも、一人の少年のファンタジー的な冒険物語。
ロッドは宇宙一の大金持ちになったけど地球へやってくる時はミイラ化して、そして、地球では追われたり、逃げたり、猫人間に化けたりとさんざん。猫人間の美しい娘のク・メルに恋をしたり、生き方やそれまでの自分を振り返ったりと…彼自身の成長、そして人類補完機構の支配している時代の地球…そしてそこに済む安全に守られて閉鎖して自滅の道をたどろうとしている人類…そして人間に尽くしている下級な動物から作られた人々…などなとの他の短編の人類補完機構シリーズのでは見られない世界が見れます。
この冒険物語は…単純に冒険でなく、主人公以外の一つ一つの細かく書かれた他の人々の描写が繊細で読み勧めるほど濃密な話。
読んだ後がすっきりしいて何か不思議な印象を残します。
Author&WebMaster : Azusa | 2003年9月15日 | 人類補完機構(コード・ウェイナー・スミス)
人類補完機構 鼠と竜のゲーム
The Best of Cordwainer Smith
コードウェイナー・スミス 著 伊藤 典夫/浅倉 久志 訳訳者曰く、変わったSFを書く人(らしい)コードウェイナー・スミスの人類補完機構シリーズ第一弾。
平面航法で宇宙を短期間で旅できるようになった未来で人類補完機構が人間を統括して管理している世界のお話の短編集です。
人類補完機構シリーズは長編一本と複数のショートストーリーで構成されていて設定は各話に断片的に説明させていて年代もバラバラ。
そう、たとえるなら粉々になった死海文書の紙の断片のような感じ。読み方も設定と背景を読者側が繋ぎ合わせるような感じ。
人類補完機構というのは『イントルメンタリティー』という言葉の強引な訳らしいです。
直では『媒介機構』らしいですけどあんまり宗教的なニュアンスがないとか、まぁイメージの問題でしょう。あんまりカッコよくないですね。
…で、『実際的に、あるいは形而上的に、人類の<助け(インストルメンタリティ)>となる機構』で『補完』らしいです。(訳者後記参照)
余談ですけど人類補完ってどこかのアニメで登場した言葉ですね…モトネタはここにあるという話を聞いたことがあるのですけど。
スキャナーに生きがいはない Scanners Live Vain
長距離の宇宙飛行において乗客は冬眠状態で旅ができるがパイロットは長く、気の狂うような時間をすごさないといけない。そこでスキャナーとヘイバーマンと呼ばれる人々が宇宙船の操縦をしていた。
両者とも、脳から思考と両眼以外の神経を切断してスキャンする機械を胸に埋め込み感情もなくただ考え、行動するように作られた…いわばサイボーグのような存在。
ヘイバーマンは囚人から作られて拷問のような長時間の宇宙旅行をするがスキャナーは自らその手術を受けてなった人々。スキャナーは人類を統括している人類補完機構やあまたの々から尊敬を受ける存在。
しかしアダム・ストーンという人物がそのような手術を施した人でなくても宇宙旅行が出来る…虚空の苦痛を征服する方法を編み出したという情報を入手。それでスキャナー達は無用の存在になる危機に直面。感情を欠いたスキャナー達はそれは異端邪説と決め付けスキャナーたちの多数決で彼を人類補完機構を無視して抹殺することを可決する。
最初から少々狂気じみてて狂信めいたお話です。感情を抑制されると人間的な考えが出来なくなる…ということを暗示しています。科学が発達しているのにまるでマインドコントロールのような思考が働いていて不気味…一時期の新興宗教すら思い起こさせます。
後にスキャナーは不要になった。でもみんなから尊敬を集めているスキャナー達はそのまま高官として生身の人間のパイロットで起用、めでたしめでたし…
でも彼らが企てたことは忘却のかなたへ葬りさられるのです。結局は皮肉めいてます。
星の海に魂の帆をかけた女 The Lady Who Salied The Soul
この本の中では唯一ロマンティックなお話。
ある女性解放論者、報道機関に挑発的な発言をしてきて有名になった女性から生まれた少女。彼女は生まれた時から報道機関の好奇の目にさらされ続けていた。母親は少女を溺愛し、少女をの優秀さをひけらかした。決して美しくない少女。少女は周囲から中傷を受けつづけ耐えに耐え、学びに学び、優秀な頭脳をもった。しかし母親の過激な行動によって彼女はずっと中傷と好奇の目にさらされ続けている…。彼女はファミリーネームを持たない。彼女の名はヘレン・アメリカ。
そしてある男性が人類の一部が遠い昔に命がけで移民した地球に似た星からやってきた。彼は40年という歳月を宇宙船を操ることに費やしてやってきた人物。宇宙に旅立つときは脳の考える速度を落として40年を一ヶ月としてきた。でも老化は止められない。心は若々しい老人。彼の名はミスター・グレイ=ノー=モア
彼と彼女は出会った。好奇の目にさらされ続けていた彼女を彼は普通の目で見る。彼女は彼が好きになった。でも彼は…若い老人は彼女を受け入れなかった。若い彼女をすでに年老いてしまった自分とは結婚することはできない。そして彼は四十年の歳月をかけて来た道のりを再びもどる…今度はポッドに凍り付いて。ちがう人が操縦する。もう二人が会うことはない。
しかし彼女は船に乗り込んだ。パイロットとして。四十年の年月を棒に振るパイロット。乗る船は『魂(ソウル)』星の海に巨大な帆をかけて。
一言。感動しました。いい話です。
SFなのにファンタスティックな感じのロマンス。主人公…おじいさんな人のどこがいいの?なんて思ってしまうのはダメです。この話のいいところは彼と彼女の生き方と決意と意思。想う心です。
鼠と竜のゲーム The Game of Rat and Dragon
本のタイトルになっているお話ですね。テンポのいいお話。
二次元を通ることで超長距離の宇宙旅行を大幅短縮できたのはいいけど二次元には得体の知れないバケモノがいる。そいつは人間から見ると『竜』に見える。人間の心や体を蝕むバケモノ。
そいつを倒すのがピンライターのお仕事。ピンライターはテレパシーをもつ人間。そして直にバケモノと戦うのは彼らのパートナー。パートナーにもテレパシー能力がある。そしてパートナーには竜がでかい鼠にしか見えない。パートナーは猫。人間とテレパシーのコンタクトを取って二次元を飛び、竜を倒す!
愉快というか…猫とテレパシーでやり取りしている時に猫の思考が流れてくるんだけどうっとりするメスのペルシャ猫、何の代償も求めないでしなやかでうつくしい彼女に匹敵する女はどこにもいない…らしい。猫、猫、猫、やらしい猫もいれば強情な猫もいる。
うーん、たしかにメスの猫は魅力的だけど…ねぇ??
しかし猫と人間のやり取りがまた愉快。テレパシーがあるので彼らの考え筒抜け。彼ら猫の考えることはなんだか妙な気分にさせられます。
燃える脳 The Burning of the Brain
マーニョ・タリアーノは熟練、最高のゴー・キャプテン(…宇宙船の操縦、統括者…と思う)。彼と他の乗客、乗務員を乗せた船は大宇宙を航行中、不運にも道に迷う。他の乗務員は地球への帰還を望むが頼りになるのはゴー・キャプテンのマーニョ・タリアーノの脳の中に眠る道筋だけ。しかしそんなことをすれば脳は燃え尽きてしまう。しかしマーニョ・タリアーノは脳を燃やして地球へ向かって戻り始めた。
この物語の見るべきところは死と破滅に憧れるマーニョ・タリアーノの奥方、ドロレス・オーでしょう。危機迫る中、彼女は『もうだめ、だめ、だめ』といつつ生き生きしてきます。狂ってる…ともいえなくもないけどこのような女性のヒステリックなタナトス(フロイトの用語 死の衝動 )はよく小説とかで描かれますね。女性はヒステリックに死に憧れているんでしょうかね…。
スズダル中佐の犯罪と栄光 The Crime and the Glory of Commander Suzdal
生真面目、朴念仁、そのくせ情に脆いスズダル中佐は宇宙の果ての探索のために一人、地球から宇宙へ旅立った。彼は事前に幻像の人間などを映す装置(人格も植えつけられて会話などもできる)に妻や女性や友人らなどを勧められたが真面目が故かきっぱり断ってかわりに思いやりと落ち着きのある亀人(亀から作った人間??)を乗せて行くことにした。
さてさて、長く航行している間にスズダル中佐の船はある星からのメッセージを乗せたカプセルに遭遇する。これがまたクセモノ。
黄金の船が? おお! おお! おお! Golden the Ship Was ? Oh! Oh! Oh!
地球へ侵略しようとする星がいる。
そこで人類補完機構は『黄金の船』を出動させることを決める。深遠の宇宙に隠していた人類最大の武器。全長1億5千キロの巨大な船。
…短い話です。ページもわずか22ページで終わる超ショートストーリー。
しかし、黄金の船というのが…人類最大のハッタリ、カカシ、ダミーなのです。中空っぽのとんでもない船。当然、ハッタリに虚をつかれている間にちっちゃな船で狡い攻撃。秀吉の一夜城のような話。しかしこれもまた戦略…。
ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち Mother Hitton's Littul Kittons
不老長寿の薬を作り出し、巨額の富を得る不毛の星、オールド・ノース・オーストラリア『ノーストリリア』は鉄壁の防御を誇る星。そこに盗賊の星から超一流の盗賊がこの星の財産すべてを狙って動き始めた。しかし、このノーストリリアの鉄壁の防御の秘密はこの盗賊の星の人々にはわからなかった。そしてなんどもこの鉄壁の防御のために誰一人この星の富を脅かすことが出来なかった。
盗賊はまずノーストリリアの鉄壁の防御の秘密を探ることにした。そこで探し得たキーワード…
『ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち』
プロットの一部がアリババと40人の盗賊が元になっているお話らしい。展開は秘密裏に動いているつもりだった盗賊をノーストリリアの政府がそのまた裏をかく。
ママ・ヒットンのかわゆいキットンというのは心理攻撃をして相手を発狂、破滅させる狂った羊たちのテレパシー。
ノーストリリアは自分達の富を守るために恐ろしいほど保守的な態度を示している星なのだけど…元々ノーストリリアはオーストラリアに訪れた著者がその影響を受けて作り出された星らしい。言われてみればオーストラリアって物品の輸出は凄いのだけど保守的というイメージはありますね。ただ、この本で書かれているほど不毛の大地というイメージはしませんが。古き良き地球というイメージがありす。やはり孤立した大陸で人も動物も独自の方向へ行ったせいでしょうか?
アルファ・ラルファ大通り Alpha Ralpha Boulevard
人類補完機構によって統括されて地球では人類は言語、服装、民族性なども全て平等化、平均化され、不老長寿薬で寿命400歳までに設定され、天候も管理され、災害、事故などあらゆる危険から保護されていた。しかしそんな閉塞された世界で失われた人間性、民族性、言語、さらには災害、危険…を取り戻す《人間の再発見》という動きが出ていた。人類補完機構はこの人々の動きを…容認した。
ちょうど人類補完機構シリーズの中の唯一の長編、『ノーストリリア』の直前の出来事のお話になります。
人類補完機構は自由を容認しているのに自由を束縛している…という不思議な人々の統括をしていたのですが…この人類が危険や冒険や言葉や民族性などを取り戻そうとした動きをした…のはいいのだけど…結局その容認された『危険』に一人の男が犠牲になるというなんとも皮肉な話。
結局人間は自由を求めつつも統括され、全てを束縛されないと生きていけないのでしょうか?
Author&WebMaster : Azusa | 2003年8月 7日 | 人類補完機構(コード・ウェイナー・スミス)




